第2回:テストステロンを下げる要因を見極める――あなたの生活習慣が落とし穴?

前回は「テストステロンとは何か?」という基礎的なところから、仕事やメンタルとの関連性について解説しました。
テストステロンが不足すると、モチベーションの低下や集中力の維持が難しくなるなど、ビジネスパーソンにとって大きなデメリットが生じることが分かりましたね。

ではなぜ、テストステロンは低下してしまうのでしょうか。
本記事では、日常生活の中でテストステロンを下げてしまう代表的な要因を掘り下げます。

実は、忙しいビジネスライフの中で当たり前に行っている習慣が、テストステロンを大きく減少させる「落とし穴」になっているかもしれません。ぜひ自分の習慣を振り返りながら読み進めてみてください。

1.テストステロンを下げるライフスタイルの正体

1-1.慢性的な睡眠不足
ビジネスパーソンにとって、睡眠時間の確保はしばしば大きな課題となります。
残業、接待、さらにはスマートフォンやタブレットの普及による就寝前のデバイス使用……。こうした要因で睡眠時間や睡眠の質が損なわれると、テストステロンの分泌にも悪影響を及ぼします。

テストステロンは睡眠中、とくに深い眠り(ノンレム睡眠)で多く分泌されることがわかっています([1])。
したがって、慢性的な睡眠不足はテストステロン生成の大切な時間を奪ってしまうわけです。
さらに、睡眠不足が続くとストレスホルモンであるコルチゾールが増えやすくなり、テストステロンの分泌を抑制する悪循環に陥ることもあります([2])。

1-2.過度なストレスとコルチゾール
ストレスフルな職場環境や、長時間労働、人間関係の悩みなど、現代のビジネスライフにはストレス要因が尽きません。
ストレスを受けると体内でコルチゾールが分泌され、テストステロンの合成を妨げる方向に働きます([3])。
一時的なストレスならまだしも、慢性的に高いストレス状態が続けば続くほど、テストステロンは低下しやすくなります。

しかも問題は、それだけではありません。ストレスが溜まると食生活の乱れや睡眠の質の低下、さらにはお酒やタバコへの依存度が高まるなど、二次的な悪影響が連鎖的に起こる可能性が高まります。
結果として、複数の要因が重なり合ってテストステロン値を押し下げる要因になり得るのです。

2.食習慣がもたらすテストステロン低下のシナリオ

2-1.偏った栄養バランス
「忙しくて昼食はいつも外食かコンビニ弁当」「夜は手軽に済ませたいからファストフード」
――こうした状況はビジネスパーソンにとって珍しくないかもしれません。しかし、偏った食事はテストステロン値を下げる大きな要因となります。

テストステロン生成にはタンパク質や良質な脂質、各種ビタミン・ミネラルが必要です([4])。
とくに、亜鉛やマグネシウム、ビタミンDなどはテストステロン分泌に深く関係する栄養素として知られています([5][6])。
これらが不足すると、体が十分なテストステロンを合成できなくなるのです。

2-2.過剰な糖質とトランス脂肪酸
また、過剰な糖分の摂取やトランス脂肪酸を含む食品(揚げ物、マーガリン、菓子パンなど)の取りすぎも良くありません。
糖質を多く摂ると血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌されます。
このインスリンの乱高下がストレスホルモンの分泌を促進し、ホルモンバランス全体を乱す一因になると考えられています([7])。

さらに、トランス脂肪酸は心血管系疾患リスクのほかに、男性ホルモンの代謝を阻害する可能性が指摘されています([8])。
おいしさや手軽さを優先しがちな現代の食習慣にこそ、テストステロンを下げる落とし穴が潜んでいるわけです。

3.運動不足とオーバートレーニングの落とし穴

3-1.運動不足による筋肉量の低下
テストステロンは筋肉を合成するホルモンとして重要ですが、筋肉量が減少するとその分テストステロンの恩恵を受けにくくなり、さらなる筋力低下へと繋がる負のループに陥ります([9])。
デスクワーク中心の生活や移動手段の機械化が進んでいる現代社会では、1日の歩数が極端に少ないビジネスマンも少なくありません。

適度な運動、とりわけレジスタンストレーニング(筋トレ)はテストステロン分泌を高める有効な手段といわれています。
しかし、「運動する時間がない」「ジムへ行くのが面倒」と後回しにしていると、テストステロンの低下を加速させる結果につながります。

3-2.オーバートレーニングによる逆効果
一方で、熱心に運動している人であっても注意が必要です。
過剰に長時間の有酸素運動をしたり、筋トレを毎日休みなく行ったりすると、体に強いストレスがかかり続け、コルチゾールの分泌が増加します([10])。
過度な運動は体の回復力を超えて疲労を蓄積させ、テストステロンの低下を引き起こす「オーバートレーニング症候群」を招く恐れがあるのです。

運動は量や質が適切であるほどテストステロンにプラスになりますが、極端なやり方では逆効果になりかねないという点は覚えておきたいところです。

4.アルコールと喫煙がもたらす影響

4-1.アルコールの過剰摂取
仕事の付き合いやストレス発散を理由に、お酒を飲む機会が多い方も多いでしょう。
適度な飲酒であればリラックス効果も期待できますが、過度なアルコール摂取はテストステロン低下につながります。
アルコールは肝機能を損ない、エストロゲン(女性ホルモン)へ変換する酵素の働きを高めてしまう可能性が指摘されています([11])。

さらにお酒を飲みすぎると、睡眠の質が下がる、栄養バランスが乱れる、翌日に疲れを持ち越す……といった二次的なデメリットも少なくありません。
これらもまたテストステロンの低下を誘発する要因となります。

4-2.喫煙がテストステロンに与えるリスク
喫煙習慣を持つ方も要注意です。
タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は血管を収縮させ、血行不良を招きます。
男性ホルモンの生成・分泌には十分な血流が欠かせないため、喫煙による血行障害はテストステロン低下のリスクを高めると考えられています([12])。

また、喫煙は活性酸素の増加や炎症の増大など、健康面全般に広範な悪影響をもたらします。
結果的にホルモンバランスが乱れ、パフォーマンス低下につながることが多いのです。

5.情報過多とメンタル疲労

5-1.デジタルデバイスの使いすぎ
日常生活のあらゆるシーンでスマートフォンやパソコンを使用する現代社会では、常に情報の洪水にさらされています。
SNSやメール、チャットツールなどを絶え間なくチェックしていると、脳が休まる時間がほとんどありません。
結果として交感神経が優位に傾き、ストレスホルモンが高止まりの状態に陥りやすくなります([13])。

テストステロンは副交感神経が優位になりやすいリラックス状態で分泌が促進されやすい傾向にあります。
そのため、常時スマホを手放せないライフスタイルは、ストレス増加によるテストステロン低下の大きな要因と言えるでしょう。

5-2.睡眠前のブルーライト
情報過多の時代に加えて問題となるのが、寝る直前までスマホを触る習慣です。
スマホやパソコン、タブレットなどから放射されるブルーライトは、脳を覚醒させる効果があり、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を抑制します([14])。
この影響で就寝時間が遅くなったり、眠りの質が低下したりすると、前述のようにテストステロンの分泌が阻害されてしまいます。

6.改善に向けた第一歩:意識改革から始めよう

これまで紹介してきたテストステロンを下げる要因は、いずれも現代のビジネスライフにおいては非常に身近なものばかりです。
「睡眠不足やストレスは仕方がない」「仕事の付き合いで飲み会が多い」「忙しくて運動や食事に気を遣う余裕がない
」――こうした事情も分かりますが、テストステロンが著しく低下すると、むしろ仕事のパフォーマンスや健康面でのトラブルを招き、結果的に大きな損失を生む可能性があります。

具体的な生活習慣改善については、今後の回でテーマ別に詳しく解説していきますが、まずは「自分のライフスタイルがテストステロンを下げていないか」を客観的に見直してみることが大切です。
たとえば週末だけでもスマホを手放す時間を作ってみる、夕食後には過度の飲酒を控えて早めに寝る、といった小さな工夫が思わぬ効果を発揮する場合があります。

7.まとめと次回予告

テストステロンを下げる要因として、睡眠不足、過度なストレス、偏った食事、運動不足やオーバートレーニング、アルコール・喫煙、そして情報過多によるメンタル疲労など、多岐にわたるポイントを挙げました。
これらは現代のビジネスパーソンにとって「あるある」な状況ばかりですが、だからこそ無意識に悪影響を受け続けているかもしれないのです。

もし心当たりがあるなら、日常生活の些細な部分から少しずつ見直してみましょう。
テストステロンが健全に分泌されるよう意識を変えることで、仕事の集中力や意欲、ストレス耐性が高まり、結果的にビジネス上の成果にも好影響をもたらすはずです。

次回は、テストステロン分泌に大きく関わる「睡眠」にフォーカスして、「なぜ睡眠がこれほどまでに重要なのか」「どうすれば睡眠の質を高められるのか」を具体的に解説していきます。忙しいビジネスパーソンこそ見落としがちな最強のリカバリー術をぜひ学んで、テストステロンの低下を防ぎましょう。

どうぞお楽しみに。

 

【参考文献】
[1] Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
[2] Sapolsky RM, Romero LM, Munck AU. How do glucocorticoids influence stress responses? Endocr Rev. 2000;21(1):55-89.
[3] Archer J. Testosterone and human aggression: an evaluation of the challenge hypothesis. Neurosci Biobehav Rev. 2006;30(3):319-345.
[4] Vingren JL, Kraemer WJ, Ratamess NA, et al. Testosterone physiology in resistance exercise and training. Sports Med. 2010;40(12):1037-1053.
[5] Prasad AS. Zinc in human health: effect of zinc on immune cells. Mol Med. 2008;14(5-6):353-357.
[6] Pilz S, Frisch S, Koertke H, et al. Effect of vitamin D supplementation on testosterone levels in men. Horm Metab Res. 2011;43(3):223-225.
[7] Hackney AC. Stress and the neuroendocrine system: the role of exercise as a stressor and modifier of stress. Expert Rev Endocrinol Metab. 2006;1(6):783-792.
[8] Mozaffarian D, Katan MB, Ascherio A, Stampfer MJ, Willett WC. Trans fatty acids and cardiovascular disease. N Engl J Med. 2006;354(15):1601-1613.
[9] Bhasin S, Woodhouse L, Storer TW. Proof of the effect of testosterone on skeletal muscle. J Endocrinol. 2001;170(1):27-38.
[10] Fry AC, Kraemer WJ. Resistance exercise overtraining and overreaching. Sports Med. 1997;23(2):106-129.
[11] Cordovil De Sousa Uva M, et al. Alcohol consumption, smoking, and the metabolic syndrome in men. Rev Port Cardiol. 2009;28(6):615-625.
[12] Araujo AB, et al. Association of Tobacco Smoking With Decreased Levels of Inhibin B in Adult Men (National Health and Nutrition Examination Survey III). Fertil Steril. 2009;91(5):1564-1570.
[13] Gao X, Li H, Qiao Y, et al. The impact of digital overload on psychological well-being. Inf Process Manag. 2022;59(1):102785.
[14] Chang AM, Aeschbach D, Duffy JF, Czeisler CA. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015;112(4):1232-1237.