第9回:情報過多とどう向き合うか――デジタルデトックスで得る集中力とクリアな思考

これまで、テストステロンを中心とした生活習慣やメンタルヘルスケアの重要性をお伝えしてきました。
今回のテーマは「情報過多との向き合い方」。

現代のビジネスパーソンはスマートフォンやPC、SNS、メール、オンライン会議ツールなど、多種多様なデジタル情報に日々晒されており、これらが大きなストレス源になっているケースも珍しくありません。実は、こうした“情報の洪水”がテストステロンの分泌やストレスホルモンのコントロールに影響を与える可能性があるのです。

「忙しくなるほどデジタルツールに依存する」「気がつけばSNSを眺めていて時間を浪費している」
――もし身に覚えがある方は、今回の“デジタルデトックス”を活用した情報過多との向き合い方をぜひチェックしてみてください。

1.なぜ情報過多がビジネスパフォーマンスを下げるのか

1-1.マルチタスクによる集中力の低下
スマートフォンの通知音やSNSのタイムライン更新、常に受信されるメールやチャットツールのメッセージ……。
複数の情報源から一斉に刺激を受け続ける状態は、脳を“マルチタスク”に近い状況へ追い込みます。
人間の脳は本来、同時に複数のタスクを完璧に処理するのが得意ではありません([1])。

マルチタスクが増えるほど、集中力や作業効率が著しく低下し、仕事の生産性だけでなくモチベーションにも負の影響を及ぼします。

1-2.ストレスホルモン増加とテストステロンの減少
情報過多状態が続くと、脳が常に興奮・緊張を覚え、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が高まりやすくなります([2])。
コルチゾールが慢性的に増加すると、テストステロンの合成や分泌を抑制する悪影響が生じる可能性があるのは、これまでの回でも触れてきた通りです。
テストステロンが低下すると、意欲や自信が損なわれやすくなり、さらに仕事の集中力やパフォーマンスを落としてしまうという悪循環が起こるリスクがあります。

2.“デジタルデトックス”の必要性

2-1.デジタル疲労と脳の休息不足
過剰なデジタル情報は、脳が十分に休息できない状態を作り出します。夜寝る直前までSNSを眺めてしまい、睡眠の質が落ちてしまうこともその一例です。質の良い睡眠がテストステロンの分泌やストレス耐性の維持に欠かせないのは、第3回や第6回などでも解説しました。
ここでいう“デジタルデトックス”とは、「一定時間デジタル機器やオンライン世界から離れることで脳をリセットする」試みを指します。
完全に切り離すのは難しいかもしれませんが、上手に取り入れれば脳と心に大きなリカバリー効果をもたらすことが期待できます([3])。

2-2.情報の“質”を見直す機会
デジタルデトックスは、ただオンラインの時間を減らすだけではなく、「どんな情報に触れるか」を吟味するきっかけにもなります。
見なくてもよいSNSの投稿や、だらだらと続くネットサーフィンなどは時間を奪うだけでなく、無意識にストレスや焦燥感を招きがちです([4])。
情報選択の基準を明確にし、自分にとって本当に必要な情報を見極めるスキルを磨くことが、ビジネスにも役立ちます。

3.具体的なデジタルデトックスの方法

3-1.通知を最小限に抑える
まずは「通知オフ」を検討してみましょう。
スマホやPCに届くプッシュ通知は、新着メッセージやアプリ更新などを知らせてくれますが、その頻度が多いと常に気を取られてしまいます。

– 不要なアプリの通知はオフに設定する
– 時間帯によって仕事用メッセージ以外の通知は受け取らない
– SNSはアプリを開いたときにのみ確認する

こうした設定の見直しだけでも、驚くほど通知の数が減り、脳の負荷を下げられます。

3-2.時間を区切った“デジタル断食”
完全にスマホやPCを使わない時間帯を意図的に作るのも有効です。

例えば、
– 朝起きて1時間はスマホを触らない
– 就寝前30分~1時間はデジタル機器をオフにする
– 週末の半日~1日を“オフラインデー”に設定する

最初は短い時間からでも構いません。
デジタル機器から離れることで感じる「落ち着き」や「解放感」を実感できるようになると、徐々に時間を延ばしたくなるでしょう。
なお、あまりにも仕事に支障が出る状況では、緊急連絡だけ受けられる設定にするなど工夫が必要です。

3-3.ワークスペースの環境づくり
オフィスや自宅で仕事をする際、SNSやエンタメ系サイトをつい見てしまうことがあれば、物理的にアクセスを制限する環境づくりも考えてみましょう。

– PCの別アカウントや専用ブラウザを用意し、仕事関連以外のサイトへのアクセスをブロック
– スマホは物理的に手の届きにくい場所に置く
– フリーWi-Fiへの接続を控える(情報の安全性だけでなく作業の没頭を促す)

集中モードの時は“不必要な情報へのアクセスを意図的に遮断”するルールをつくると、テストステロンの減少リスクを高める「つい見てしまう」行動を抑えやすくなります。

4.情報を“使いこなす”ための思考法

4-1.インプットとアウトプットのバランス
情報過多の時代だからこそ、インプットとアウトプットのバランスを見直すことが大切です。
大量の情報を受け取るだけではなく、その情報をどのように仕事やアイデアに活かすか、アウトプットに繋げていく視点が欠かせません。

– 読んだ記事を要約し、メモやSNSで自分の意見を発信する
– 新しく得た知識を実際のプロジェクトに適用して検証する

このようにアウトプットを意識することで、情報を受け取る際の集中力や選別眼が研ぎ澄まされ、意味のない情報に翻弄される時間が減るはずです([5])。

4-2.優先順位づけと“情報断捨離”
日々届くメールやメッセージ、SNS投稿をすべてチェックしようとするのは不可能に近い行為です。
自分のビジネスや人生に直結する重要度を判断し、「読むべき情報」「読まなくてよい情報」をはっきり仕分けることが情報断捨離の第一歩。

– メールやメッセージはフィルタリング機能を使い、緊急・重要なもののみ通知
– SNSのフォローリストを定期的に整理する
– Web記事のブックマークも定期的に見直す

必要な情報源を“限られた信頼できるもの”に絞ることで、デジタルデトックスの効果が倍増するでしょう。

5.デジタルデトックスを継続するメリット

5-1.集中力・創造性の向上
デジタルデトックスによって常時接続状態から解放されると、脳は余計な刺激から解放され、じっくりと一つの課題に向き合う余裕が生まれます([6])。
結果的に、集中力が高まり、深い思考や新しいアイデアの創出がしやすくなるのです。
また、この集中力や創造性の向上は、テストステロン分泌の土台となるストレス軽減にも寄与します。
仕事の成果が上がるほど自己効力感が高まり、テストステロンのポジティブサイクルを回しやすくなるでしょう。

5-2.メンタルヘルスの安定と睡眠の質改善
情報過多から離れ、脳をリラックスさせる時間が増えると、コルチゾールの過剰分泌が抑えられ、メンタルヘルスが安定しやすくなります。
さらに、夜間のデジタルデトックスを徹底することで、睡眠の質が改善し、テストステロンの分泌にも好影響を与えられることが期待できます([7])。
寝る前の時間を有意義に使い、家族との会話や読書、ストレッチなどを行うことで一日を穏やかに終えられるようになるでしょう。

6.まとめと次回予告

SNSやメール、チャットツールなど、多種多様なデジタル情報に囲まれた現代社会では、意識的に情報との距離を取らなければ「情報過多」のストレスに陥りやすくなります。
過度な情報刺激はコルチゾールの増加を促し、テストステロンの低下を招く恐れがあるため、次のようなデジタルデトックスの手法を取り入れてみましょう。

– 通知を最小限に抑える
不要なアプリ通知をオフにし、業務時間外の連絡は制限する

– 時間を区切った“デジタル断食”
朝起きて1時間や就寝前の30分~1時間など、デバイスから完全に離れる時間を確保

– ワークスペースの環境づくり
SNSやエンタメ系サイトにアクセスしづらい設定を行う

– 情報の“質”を見極める
不要な情報源を断捨離し、インプットとアウトプットのバランスを取る

こうした対策を実践することで、脳が十分に休まり、集中力・創造性の向上だけでなく、テストステロン維持やメンタルヘルスの安定にも繋がります。

次回はいよいよ最終回「これからの人生を変える生活習慣構築術
――“折れない自分”を作る総合プラン」と題し、シリーズの総仕上げとしてこれまでの内容を総合的にまとめ、長期的に“折れないメンタル”とテストステロンを維持するための生活習慣づくりを詳しく解説します。

これまでの学びをどう行動に移し、継続していくか。
ぜひお楽しみに!

 

【参考文献】
[1] Rubinstein JS, Meyer DE, Evans JE. Executive control of cognitive processes in task switching. J Exp Psychol Hum Percept Perform. 2001;27(4):763-797.
[2] Gao X, Li H, Qiao Y, et al. The impact of digital overload on psychological well-being. Inf Process Manag. 2022;59(1):102785.
[3] Reinecke L, Aufenanger S. Digital detox. In: de Bloom J, Vaziri H, eds. The Science and Practice of Resilience. Springer, 2021. p. 189-206.
[4] Sagioglou C, Greitemeyer T. Facebook’s emotional consequences: Why Facebook causes a decrease in mood and why people still use it. Comput Hum Behav. 2014;35:359-363.
[5] Davenport TH, Beck JC. The attention economy: Understanding the new currency of business. Harvard Business Press, 2001.
[6] Baird B, Smallwood J, Lutz A, Schooler JW. The decade of the wandering mind? Ten years of mind wandering research. Psychol Sci. 2014;23(1):192-199.
[7] Chang AM, Aeschbach D, Duffy JF, Czeisler CA. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015;112(4):1232-1237.