第7回:筋力トレーニングがビジネスを強くする――“続けやすい”運動習慣を築く秘訣
前回はテストステロン分泌を後押しする「食事術」をテーマに、日常の食選びがいかにビジネスパフォーマンスやメンタル面に影響するかを解説しました。
今回は、そのテストステロン分泌をさらに活性化させ、ストレス耐性や仕事の効率を高める“運動”――特に「筋力トレーニング」について取り上げます。
「忙しいビジネスパーソンが毎日ジムに通うなんて無理」「運動は苦手で続かない」という声も多いかもしれませんが、実はちょっとした工夫で“続けやすい”運動習慣を築くことができます。
運動不足がもたらす悪影響や、テストステロンを高めるために有効なトレーニングのポイント、そして忙しい中でも長続きするコツをご紹介していきます。
1.なぜ筋力トレーニングがビジネスに効果的か
1-1.テストステロン分泌を促す運動の代表格
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)は、テストステロン分泌を高める運動として最もよく知られています。
とくに大筋群(脚や背中、胸などの大きな筋肉)を刺激する種目はテストステロンの急上昇を促しやすいとされ、仕事に必要な集中力やモチベーションの維持にもプラスに働きます([1])。
筋トレによって筋肉量が増えると、基礎代謝が上がり体脂肪がつきにくくなるため、肥満やメタボリックシンドロームといった生活習慣病のリスクが下がることもメリットの一つです。
1-2.ストレス耐性とメンタル強化
筋力トレーニングなどの無酸素運動を適度に行うと、ストレスを感じたときに増加するコルチゾールが過剰分泌されにくくなり、ストレスへの耐性が高まる可能性があります([2])。さらに、筋肉に刺激を与えて血流が促進されることで、脳内にも酸素と栄養が行き渡りやすくなり、メンタルの安定や頭の回転アップにつながります。
ビジネスの現場では、突発的なトラブルや長時間の交渉などで強い精神力が必要とされます。筋力トレーニングを継続して行うことで、体力と心の resiliency(回復力)が高まり、仕事上のストレスを前向きに捉えやすくなるでしょう。
2.筋力トレーニングの基本:何から始めればいい?
2-1.大筋群を中心としたメニュー
テストステロン分泌を効率よく促すには、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトのように大きな筋肉を動員する多関節種目(コンパウンド種目)がおすすめです([3])。
– スクワット
脚(大腿四頭筋・ハムストリングス)や臀部など大きな筋群を同時に鍛えられ、テストステロン分泌を高める代表的な種目。
– ベンチプレス
胸(大胸筋)、肩(三角筋)、腕(上腕三頭筋)など複数の筋群を動員するため、上半身を効率的に鍛えられる。
– デッドリフト
背筋(広背筋・脊柱起立筋)や脚、臀部、腕と広範囲に刺激を与えられ、全身の筋量アップに有効。
2-2.自宅やオフィスでもできる自重トレーニング
「ジムに行く時間が取れない」「器具を揃えるのが難しい」という場合、自宅やオフィスでも取り入れやすい自重トレーニングからスタートするのも一つの手です。
– プッシュアップ(腕立て伏せ)
大胸筋・上腕三頭筋・肩など、上半身をバランスよく刺激できる。膝をつく方法や、手を壁につく方法なら負荷を調整可能。
– スクワット(自重)
自宅でも器具なしで行える。手を前に伸ばしてバランスを取りながらしゃがむだけでも下半身の筋肉を鍛えられる。
– プランク
腹筋・背筋・体幹全体を鍛える定番種目。姿勢をキープしているだけなので場所を選ばない。
3.続けやすい運動習慣を築くコツ
3-1.目標設定とモチベーション管理
筋力トレーニングは、ある程度の継続期間が必要です。
最初の1~2週間で目に見えた成果が出なくても焦らないよう、「3カ月後に体脂肪率を○%減らす」「週2回のトレーニングを1カ月継続する」など、具体的かつ達成可能な目標を設定しましょう([4])。
また、モチベーションを上げる仕組みとして、
– スマホアプリでトレーニング記録をつける
– 仲間やSNSを通じて進捗を共有する
– ご褒美を設定する(一定期間継続できたら好きなアイテムを購入する等)
など、自分に合った方法を工夫してみてください。
3-2.「ながらトレーニング」で時短を狙う
「忙しくて運動する時間がない」というビジネスパーソンは、ライフスタイルの中に“ながらトレーニング”を組み込むのがおすすめです。
– 通勤をウォーキングに変える
最寄り駅より一つ先の駅まで歩いてみる。エスカレーターより階段を使う。
– オフィスでのこまめな立ち上がり
1時間に一度は席を立ち、軽く屈伸やスクワットを10回程度取り入れる。
– 歯磨き中やテレビ視聴中に体幹を鍛える
プランクやサイドプランクなど、静止系のトレーニングはながら作業とも相性が良い。
3-3.パーソナルトレーナーやジムの活用も手段の一つ
時間や資金にある程度余裕があれば、パーソナルトレーナーに指導を受けるのも有効な選択肢です。
フォームを正しく習得できればケガのリスクが減り、短期間で効果を実感しやすくなります。また、ジムに通うことで“行けばやるしかない”環境を作れる点はモチベーション維持に大きく貢献します。
とはいえ、全員がジムに通う必要はありません。自宅派の方もオンラインパーソナルトレーニングなどのサービスを利用すれば、プロのアドバイスを手軽に受けられる時代です。
4.オーバートレーニングに要注意
4-1.適度な休息の重要性
筋力トレーニングは“休むこと”も非常に大切です。
筋肉はトレーニングによる微細な損傷から回復するときに成長します。休息と栄養補給が不十分だと、逆にテストステロンが低下し、コルチゾールが増加する「オーバートレーニング症候群」に陥るリスクも([5])。
週に2~3回の筋トレであれば、筋群ごとに48~72時間の回復期間を確保するのが一般的です。「毎日筋トレすれば早く成果が出る」というわけではなく、質の高い休息を取ることが長期的な結果につながります。
4-2.睡眠と栄養の連動
筋肉の合成やテストステロンの分泌は睡眠中に活性化されるため、前回や前々回にも触れた“睡眠の質”は非常に重要です([6])。
また、栄養不足の状態で過度なトレーニングを行うとケガや免疫力低下の恐れもあるため、食事術(第6回参照)と合わせて総合的に取り組む必要があります。
5.ビジネスパフォーマンスへの具体的な変化
5-1.集中力・判断力の向上
筋トレを継続していると、体力と共に集中力や判断力が高まる感覚を得る人が少なくありません。
これは、運動によって脳への血流が増し、神経伝達物質が活性化することで、思考がクリアになるためと考えられています([7])。特に会議や交渉の場面では、持久力だけでなく「瞬時に正確な決断を下す力」が求められるため、筋トレによる恩恵は大きいでしょう。
5-2.モチベーションと自己肯定感の向上
筋トレを続けていると、体型の変化だけでなく「やればできる」「これだけ継続できた」という自己効力感が育ちます。
こうしたポジティブな感覚は、仕事のチャレンジに対する積極性や自信にも直結します([8])。
また、筋トレによってテストステロン値が高まると、闘争心ややる気も自然と湧きやすくなり、「これくらいのプレッシャーなら乗り切れる」と思えるようになるケースも多いです。
6.具体的メニュー例:忙しい人向けの週2プラン
「それでも具体的にどんなメニューをやればいいの?」という方に向けて、週2回の簡単なプラン例をご紹介します。
1回30分~40分程度を目安に考えてみてください。自重トレーニングメインの場合は、回数やセット数を調整して負荷をコントロールします。
– DAY1(上半身メイン)
1. プッシュアップ(腕立て伏せ):10~15回 × 3セット
2. プランク:30秒~1分 × 3セット
3. チューブプレスまたは軽いダンベルプレス:10~12回 × 3セット(大胸筋・三角筋・上腕三頭筋)
4. ショルダープレス(チューブやダンベル):10~12回 × 3セット(肩・上腕三頭筋)
5. バックエクステンション(背筋):10~15回 × 3セット
– DAY2(下半身メイン)
1. スクワット(自重またはダンベル):10~15回 × 3セット
2. フォワードランジ(交互に脚を踏み出す):各脚10回 × 3セット
3. ブリッジ(臀部上げ):10~15回 × 3セット
4. カーフレイズ(つま先立ち):15~20回 × 3セット
5. サイドプランク:左右30秒~1分 × 2セット
この他、有酸素運動(軽いジョギングやウォーキング)を週に1~2回程度取り入れると、心肺機能や血流促進にも役立ちます。
ただし長時間の過度な有酸素運動はコルチゾール増加のリスクがあるため、疲労が残りやすいと感じる場合は適度な時間で切り上げましょう。
まとめと次回予告
筋力トレーニングは、テストステロンを高める最も効果的なアプローチの一つです。
忙しいビジネスパーソンこそ、短時間でも効率的に大筋群を刺激し、適切な休息と栄養補給を組み合わせることで、体力面とメンタル面の双方を強化できます。
特に大切なのは「継続しやすい方法を選ぶ」こと。まずは週2回の筋トレからスタートして、慣れてきたら頻度やメニューを増やすなど、自分の生活スタイルに合わせて調整してみてください。
次回は「メンタルヘルスのセルフマネジメント――仕事の行き詰まりを打開する心の整え方」と題し、ストレス社会を生き抜くビジネスパーソンに向けたメンタル面のセルフケア方法を深掘りします。テストステロンと心の健康を繋ぐ要素をさらに掘り下げ、具体的なストレスコーピングの技術などをご紹介します。ぜひお楽しみに!
【参考文献】
[1] Kraemer WJ, Ratamess NA. Hormonal responses and adaptations to resistance exercise and training. Sports Med. 2005;35(4):339-361.
[2] Hackney AC. Stress and the neuroendocrine system: the role of exercise as a stressor and modifier of stress. Expert Rev Endocrinol Metab. 2006;1(6):783-792.
[3] Vingren JL, Kraemer WJ, Ratamess NA, et al. Testosterone physiology in resistance exercise and training. Sports Med. 2010;40(12):1037-1053.
[4] Locke EA, Latham GP. Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. Am Psychol. 2002;57(9):705-717.
[5] Fry AC, Kraemer WJ. Resistance exercise overtraining and overreaching. Sports Med. 1997;23(2):106-129.
[6] Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
[7] Colcombe SJ, Kramer AF. Fitness effects on the cognitive function of older adults: A meta-analytic study. Psychol Sci. 2003;14(2):125-130.
[8] Dishman RK, Motl RW, Saunders R, et al. Self-efficacy partially mediates the effect of a school-based physical-activity intervention among adolescent girls. Prev Med. 2004;38(5):628-636.

