第6回:テストステロンを味方にする食事術――日々の食選びが変える体と心
前回は、「呼吸」を意識的に整えるだけでストレスホルモン(コルチゾール)の増加を抑え、テストステロンの減少を防ぐ方法をご紹介しました。
今回のテーマは、ビジネスパーソンの日常に欠かせない“食事”です。
実は、日々の食事こそがテストステロンをサポートする最重要ファクターの一つ。
忙しい毎日の中で、何をどのように食べればテストステロンを味方につけられるのか、具体的なポイントをお伝えします。
1.なぜ食事がテストステロンに影響するのか
1-1.ホルモン合成の原材料になる栄養素
テストステロンをはじめ、さまざまなホルモンや酵素、免疫細胞などは、体内での化学反応によって合成されています。これらの化学反応を円滑に進めるためには、タンパク質や脂質、各種ビタミン・ミネラルなどの栄養素が欠かせません([1])。
例えば、亜鉛やマグネシウム、ビタミンDなどはテストステロン分泌や筋肉の合成と深く関わる栄養素です。
これらが不足しているとテストステロンの合成が滞ったり、ストレスに弱い状態になったりする可能性があるのです([2][3])。
1-2.血糖値の乱高下とストレスホルモン
もう一つ見逃せないのが「血糖値」です。血糖値が急上昇すると、インスリンが過剰に分泌され、その後の急降下で体がストレスを感じ、コルチゾール増加を招くことがあります。コルチゾールが高まるほどテストステロンは抑制されやすくなるため、食事による血糖値の乱高下を最小限に抑えることも重要です([4])。
2.テストステロンをサポートする栄養素
2-1.タンパク質(Protein)
筋肉やホルモン、免疫細胞など、体づくりの基盤となるのがタンパク質です。
テストステロンには「筋肉を増やす作用」があるため、適切なタンパク質摂取と筋トレを組み合わせることで筋肉量が増え、テストステロンのポジティブなループが生まれやすくなります([5])。
忙しいビジネスパーソンは、朝食や昼食が簡素になりがちですが、プロテインドリンクや卵、豆類、魚など、手軽にタンパク質を摂取できる選択肢を用意しておくと便利です。
2-2.良質な脂質(Good Fats)
一般的に「脂質=悪」というイメージもありますが、テストステロンを含むステロイドホルモンはコレステロールを原材料として合成されるため、“良質な脂質”はむしろ不足してはいけません([6])。
– オメガ3脂肪酸(青魚、アマニ油、エゴマ油など)
– オリーブオイルやアボカドに含まれる不飽和脂肪酸
これらは炎症を抑え、ホルモンバランスを整えるのに有効とされています。
逆にトランス脂肪酸や過剰な飽和脂肪酸は、動脈硬化や肥満リスクを高め、結果的にテストステロン減少につながりやすいので注意しましょう。
2-3.ミネラル(亜鉛・マグネシウム)
– 亜鉛
テストステロン生成に必須で、免疫機能や細胞分裂にも関わります。牡蠣や牛肉、ナッツ類などに多く含まれ、意識しないと不足しやすいミネラルです。
– マグネシウム
エネルギー代謝や神経伝達に関わり、ストレス軽減にも寄与します。
ほうれん草、豆類、バナナ、ナッツ類などで補えますが、現代人は忙しい生活の中で摂取が足りていないことも多いです([7])。
2-4.ビタミンD
ビタミンDは骨の健康だけでなく、テストステロン値とも関連が深いビタミンとして注目されています([8])。
魚介類やキノコ類、卵黄などに含まれていますが、食事だけでは不足しがちな場合は、適度に日光浴をすることで体内合成を促すのも一つの方法です。
日中に外出する機会が少ないデスクワーカーの方は、意識して日差しを浴びる時間を設けるか、必要に応じてサプリメントを活用することも検討してみましょう。
3.忙しいビジネスパーソンのための食事術
3-1.朝食を軽視しない
「朝は食欲がないからコーヒーだけ」「時間がないから抜いてしまう」という方も多いですが、朝食を抜くと血糖値が不安定になり、集中力やテストステロン分泌に影響を及ぼします。
忙しくても、卵やヨーグルト、納豆などのタンパク質源を取り入れることで、脳と体にエネルギーを補給し、1日のホルモンリズムを整えやすくなります。
野菜ジュースや果物を添えると、ビタミンや食物繊維も補いやすいでしょう。
3-2.昼食は適度なボリュームとバランスを
外食やコンビニ飯が増えがちな昼食こそ、意識的にバランスをとる努力が必要です。
– 主食・主菜・副菜の組み合わせ
白米やパンに偏らず、雑穀米や玄米を選ぶ、あるいはスープやサラダを追加するなど、血糖値の急上昇を抑える食事構成を心がけましょう。
– タンパク質の確保
から揚げ弁当やパスタのみでは脂肪や糖質が過多になりがちです。サラダチキンや豆類、卵がトッピングされたメニューを追加するなど工夫してみてください。
3-3.夕食は早め&軽めを意識
深夜の重い食事は、睡眠の質を損ないテストステロンの分泌を阻害しやすくなります([9])。
できるだけ夕食の時間を早めに設定し、就寝2~3時間前には食べ終わるのが理想です。
もし仕事の都合で遅い食事になりがちな場合は、先に軽くタンパク質や野菜を摂り、帰宅後の食事を少量に抑える工夫も考えてみましょう。
4.サプリメントの上手な活用法
4-1.基本は“食事ありき”
サプリメントは不足している栄養素を補助する目的で使うものであり、食事そのものの代替にはなりません。
まずは日常の食事でタンパク質や良質な脂質、ミネラルやビタミンを摂取することを前提とし、それでも不足しがちな栄養素をサプリで補うというスタンスが大切です。
4-2.検討したいサプリメント例
– プロテイン
食事だけでタンパク質量を満たしにくいときの補助に。ソイプロテインやホエイプロテインなど種類が豊富なので、目的や体質に合わせて選びましょう。
– 亜鉛サプリ
牡蠣や牛肉を頻繁に食べない方は、亜鉛サプリで不足を補う方法を検討。過剰摂取は逆効果になる場合もあるため、推奨量を守りながら行うことが重要です。
– マグネシウムサプリ
ストレスが多い方や運動量の多い方は、汗や代謝でミネラルを失いやすいため、食事と併用して補給する価値があります。
– ビタミンDサプリ
日照時間が少ない生活リズムの方や日焼け対策を徹底している方は、食事だけでビタミンDを十分に摂りきれない場合が多いため、サプリを検討するのも選択肢です。
5.避けたい食事習慣
5-1.過度の糖質・トランス脂肪酸
糖質の過剰摂取は血糖値の急上昇・急降下を引き起こし、ストレスホルモンを増やす要因になり得ます。また、トランス脂肪酸はホルモンバランスを乱し、心血管リスクを高める可能性があると指摘されています([10])。
甘いお菓子や清涼飲料水、スナック菓子、揚げ物中心の食生活は、忙しさからつい手を伸ばしてしまいがちですが、テストステロンの観点からも注意したいところです。
5-2.アルコールの飲みすぎ
仕事の付き合いやストレス解消としてお酒を嗜むのは悪いことばかりではありませんが、飲みすぎはテストステロン低下の大きな要因になります。
アルコールが肝臓でのエストロゲン産生を促し、男性ホルモンのバランスを崩す恐れがあるためです([11])。
また、飲酒量が増えると一緒に摂取しがちな高カロリーのおつまみなどが肥満を助長し、さらにテストステロンを低下させる一因になる場合もあります。
まとめと次回予告
テストステロンを味方にするには、「何をどのように食べるか」を意識することが欠かせません。
以下のポイントを押さえて、忙しいビジネスライフの中でも実践しやすい形から始めてみてください。
– タンパク質・良質な脂質・ビタミン・ミネラルをバランスよく
– 食事のタイミングを整え、血糖値の急激な変動を抑える
– サプリメントはあくまで食事の補助として活用
– 過度な糖質・トランス脂肪酸・アルコールはできる範囲で控える
次回は「筋力トレーニングがビジネスを強くする――“続けやすい”運動習慣を築く秘訣」をテーマに、テストステロン分泌を後押しする“運動”に焦点を当てます。
体を動かす習慣がなかなか続かない……という方ほど必見の内容となるはずです。
ぜひお楽しみに!
【参考文献】
[1] Vingren JL, Kraemer WJ, Ratamess NA, et al. Testosterone physiology in resistance exercise and training. Sports Med. 2010;40(12):1037-1053.
[2] Prasad AS. Zinc in human health: effect of zinc on immune cells. Mol Med. 2008;14(5-6):353-357.
[3] Murakami K, et al. Magnesium intake, depression, and anxiety in adults: National Health and Nutrition Examination Survey. Eur J Nutr. 2022;61(1):213-220.
[4] Hackney AC. Stress and the neuroendocrine system: the role of exercise as a stressor and modifier of stress. Expert Rev Endocrinol Metab. 2006;1(6):783-792.
[5] Bhasin S, Woodhouse L, Storer TW. Proof of the effect of testosterone on skeletal muscle. J Endocrinol. 2001;170(1):27-38.
[6] Kapoor D, Clarke S, Stanworth R, et al. The effect of testosterone replacement therapy on adipocytokines and C-reactive protein in hypogonadal men. Eur J Endocrinol. 2007;156(5):595-602.
[7] Grober U, Schmidt J, Kisters K. Magnesium in prevention and therapy. Nutrients. 2015;7(9):8199-8226.
[8] Pilz S, Frisch S, Koertke H, et al. Effect of vitamin D supplementation on testosterone levels in men. Horm Metab Res. 2011;43(3):223-225.
[9] Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
[10] Mozaffarian D, Katan MB, Ascherio A, Stampfer MJ, Willett WC. Trans fatty acids and cardiovascular disease. N Engl J Med. 2006;354(15):1601-1613.
[11] Cordovil De Sousa Uva M, et al. Alcohol consumption, smoking, and the metabolic syndrome in men. Rev Port Cardiol. 2009;28(6):615-625.