第4回:腸内環境で変わるビジネス脳――腸活がテストステロンとストレス耐性を底上げ
前回は、テストステロンを最大限に引き出すために欠かせない「睡眠」について詳しくお話ししました。
忙しいビジネスパーソンにとって、睡眠の質を高めることはパフォーマンスやメンタルを維持するうえで非常に大切です。
さて今回は、「腸内環境」にフォーカスしてみましょう。
一見、テストステロンやメンタルと腸が結びつくイメージは薄いかもしれませんが、実は腸内フローラ(腸内細菌叢)の状態がホルモン分泌やストレス耐性に大きく関与していることが近年の研究でも明らかになっています。
腸内環境を整える“腸活”を意識的に行うことで、テストステロン値の維持やメンタルヘルスの向上が期待できるのです。
1.なぜ腸内環境がビジネスマンにとって重要なのか?
1-1.腸と脳をつなぐ“腸脳相関”
腸内には100兆個を超える細菌が生息していると言われ、それらは「腸内フローラ」と呼ばれる複雑な生態系を形成しています([1])。
近年は「腸脳相関(ガット・ブレイン・アクシス)」という概念が注目されており、腸内細菌が作り出す代謝物や神経伝達物質が、血液や迷走神経などを介して脳へ影響を与えることがわかっています([2])。
この腸脳相関は、ストレス反応や不安・うつ状態だけでなく、モチベーションや認知機能にも影響を及ぼす可能性が示唆されており、ビジネスマンが日常的に感じるストレスやメンタル面のパフォーマンスに密接に関わっているのです。
1-2.腸内環境がホルモンバランスに与える影響
腸内には、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の一部が腸管内で生成されるほか、免疫機能の約7割が集まるとも言われています([3])。
免疫バランスが乱れると炎症が生じやすくなり、慢性的な炎症はホルモン分泌にも悪影響を及ぼす可能性があります。
また、腸内細菌は体内のエネルギー代謝にも大きく関与していますが、エネルギー代謝が低下したり体脂肪が過剰に蓄積したりすると、男性ホルモンであるテストステロンが減少しやすくなるリスクが高まることがわかっています([4])。
つまり、腸内環境を整えることは、間接的にテストステロン分泌の土台を支えることにもつながるわけです。
2.腸活によるテストステロン&ストレス耐性アップのメカニズム
2-1.腸内細菌が作り出す物質の役割
腸内細菌のうち、善玉菌が優勢なフローラを保つことで、さまざまな有用物質(短鎖脂肪酸やビタミン類など)が生成されやすくなります。
これらの物質は炎症を抑えたり、免疫機能を正常に保ったりする上で重要です([5])。
炎症レベルが低い状態では、コルチゾール(ストレスホルモン)の過剰分泌も抑えられやすく、結果としてテストステロン値が下がりにくくなると考えられます([6])。
2-2.腸内フローラとストレス反応
逆に悪玉菌が優勢になった状態では、炎症性物質が増え、セロトニンやドーパミンといったメンタルを安定させる神経伝達物質の生成が妨げられる恐れがあります。
そうなると、不安感やイライラ感が増し、仕事のパフォーマンスやモチベーションにも悪影響が出やすくなるでしょう。
腸内環境が悪化すると、ストレスを感じたときにコルチゾールが過剰に分泌され、さらにホルモンバランスを乱してしまうという負のスパイラルに陥るリスクもあります。
3.具体的に取り入れたい腸活のポイント
3-1.発酵食品とプロバイオティクス
腸活と言えば、まず思い浮かぶのが「発酵食品」。
日本食に欠かせない味噌や納豆、漬物、ヨーグルト、キムチなどには、生きた乳酸菌や納豆菌が含まれており、善玉菌を増やす効果が期待できます([7])。
これらは“プロバイオティクス”と呼ばれ、腸内環境をサポートするうえで積極的に摂取したい食材です。
一方で市販の発酵食品には、加熱処理によって菌が死んでしまっているものもあるため、商品選びにも注意しましょう。また、納豆やキムチは塩分や添加物の含有量にも留意したいところです。
3-2.食物繊維とプレバイオティクス
もう一つ重要なのが、食物繊維の摂取です。野菜や果物、全粒穀物、豆類に多く含まれる食物繊維は、善玉菌のエサとなって腸内での増殖を促します。
これらは“プレバイオティクス”と呼ばれ、プロバイオティクスと組み合わせることでより効果的に腸内環境を整えることができるのです([8])。
特に水溶性食物繊維を多く含む食品(オートミール、海藻、果物、根菜類など)は腸内細菌にとって有益な発酵性基質となり、短鎖脂肪酸の産生を助けるメリットがあります。
3-3.腸内リズムを整える食事タイミング
実は、食べるタイミングそのものも腸活に大きく影響します。
1日の中で食事の時間が一定であれば、腸内細菌の活動リズムも整いやすいと言われています([9])。極端な食事抜きや夜中のドカ食いなどは腸内リズムを乱し、結果的にテストステロンやストレスホルモンの分泌サイクルをも崩してしまう恐れがあります。
忙しいビジネスパーソンでも、「朝を抜かない」「昼食と夕食の時間をおおむね一定にする」などの工夫から始められるでしょう。
4.避けたい腸内環境の悪化要因
4-1.過度な飲酒・喫煙
前回までにも触れてきましたが、過度なアルコール摂取は腸内環境を悪化させる大きな要因となり得ます。
アルコールは腸粘膜を傷つけ、有害物質の吸収を高め、善玉菌を減らしてしまう可能性があります([10])。喫煙に含まれる有害物質も同様に、腸内の血流や細菌バランスにマイナスの影響を与えるとされています。
とくに、ストレス解消のつもりでお酒やタバコの量が増えている方は、腸活という視点からも控える工夫を始めてみるのが良いでしょう。
4-2.高脂肪・高糖質の食事
ファストフードや菓子類など、高脂肪・高糖質の食品を頻繁に摂取する食生活は、肥満リスクを高めるだけでなく、腸内フローラの多様性を損ないやすいことが指摘されています([11])。悪玉菌が好む環境を作ってしまうと、腸内のバランスが一気に崩れ、炎症やホルモンバランスの乱れを引き起こす恐れが高まります。
もちろん“好きなものを一切食べない”という極端なアプローチは続きにくいため、週に1回程度のご褒美とするなどメリハリをつけることが大切です。
5.腸内環境を整えるライフスタイル提案
5-1.こまめな水分補給と適度な運動
腸内環境には“水分”も欠かせません。水分が不足すると便が固くなり、腸内の滞留時間が長くなって悪玉菌が増える原因になるからです。
1日に1.5~2リットルを目安に、水やノンカフェインのお茶でこまめな水分補給を心がけましょう。
加えて、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動も、腸の蠕動運動を促進し、血流を改善する効果が期待できます([12])。
オフィスワークの合間に立ち上がってストレッチしたり、エレベーターではなく階段を使ったりするだけでも習慣化しやすいものです。
5-2.ストレスマネジメントとしての腸活
ストレスが多いと、脳だけでなく腸も影響を受け、消化不良や腹痛、便秘・下痢などの症状が出る人もいるでしょう。
これはまさに腸脳相関によるもので、腸活を意識して腸を健康に保つことが、結果的にストレスの感じ方を緩和し、メンタル面での安定やテストステロン分泌の維持にも寄与するのです。
ヨガや呼吸法、マインドフルネスなどのリラクゼーション法を取り入れることも、腸にとってはプラスに働きやすいです。副交感神経が優位になると腸の働きが活発化しやすいからです([13])。
まとめと次回予告
腸内環境は、ただ「お腹の調子を整える」だけでなく、テストステロンやストレス耐性にも深く関わっています。
腸脳相関の仕組みを理解し、発酵食品や食物繊維の積極的な摂取を意識して“腸活”を行うことで、体全体のホルモンバランスが整いやすくなり、仕事で求められる集中力・判断力・ストレスへの強さをサポートできます。
次回は「呼吸とメンタルマネジメント――深い呼吸がビジネスの成果を左右する」をテーマに、ストレスを和らげ、テストステロンの減少を食い止めるための“呼吸法”や“マインドフルネス”について深掘りしていきます。
忙しいビジネスパーソンほど見落としがちな呼吸の重要性を、ぜひ改めて確認してみてください。
次回もお楽しみに。
【参考文献】
[1] Sender R, Fuchs S, Milo R. Revised estimates for the number of human and bacteria cells in the body. PLoS Biol. 2016;14(8):e1002533.
[2] Mayer EA, Tillisch K, Gupta A. Gut/brain axis and the microbiota. J Clin Invest. 2015;125(3):926-938.
[3] Adak A, Khan MR. An insight into gut microbiota and its functionalities. Cell Mol Life Sci. 2019;76(3):473-493.
[4] Kumar P, Kumar N, Thakur DS, Patidar A. Male hypogonadism: Symptoms and treatment. J Adv Pharm Technol Res. 2010;1(3):297-301.
[5] Marco ML, Hutkins R, Hill C, et al. A classification of current probiotics and evaluation of their benefits: An ISAPP consensus statement. Gut Microbes. 2021;13(1):1-24.
[6] Sapolsky RM, Romero LM, Munck AU. How do glucocorticoids influence stress responses? Endocr Rev. 2000;21(1):55-89.
[7] Tamang JP, Shin DH, Jung SJ, Chae SW. Functional properties of microorganisms in fermented foods. Front Microbiol. 2016;7:578.
[8] Slavin J. Fiber and prebiotics: mechanisms and health benefits. Nutrients. 2013;5(4):1417-1435.
[9] Gill S, Panda S. A Smartphone App Reveals Erratic Diurnal Eating Patterns in Humans That Can Be Modulated for Health Benefits. Cell Metab. 2015;22(5):789-798.
[10] Wang Y, Kirpich I, Wang L, et al. Gastrointestinal microbiota in alcohol-related liver disease: current treatments and future possibilities. Liver Res. 2020;4(1):45-52.
[11] Kopp W. High-insulinogenic nutrition—an etiologic factor for obesity and the metabolic syndrome? Metabolism. 2003;52(7):840-844.
[12] Morifuji M, Koga J, Kawanaka K, Higuchi M. Regular exercise training increases insulin signaling in isolated rat skeletal muscle. Biochem Biophys Res Commun. 2006;345(2):947-953.
[13] Brown RP, Gerbarg PL. Sudarshan Kriya yogic breathing in the treatment of stress, anxiety, and depression. J Altern Complement Med. 2005;11(4):711-717.