第3回:睡眠が導く本当のパフォーマンス――“やる気”を起こす最強リカバリー術

前回は、テストステロンを下げる要因として、睡眠不足や運動不足、過度なストレスなど、現代のビジネスパーソンにありがちな落とし穴を紹介しました。
中でも「睡眠不足」がもたらす悪影響は深刻で、睡眠を軽視してしまうとテストステロン分泌の妨げだけでなく、仕事のパフォーマンス全般にダメージを与えます。

では、なぜ睡眠がこれほど重要なのでしょうか。
今回は、「睡眠とテストステロンの深い関係」を掘り下げつつ、忙しいビジネスパーソンこそ知っておきたい“質の良い睡眠”を確保するための具体的な方法を解説します。
毎日のリカバリーを最適化することで、あなたのビジネスパフォーマンスとメンタル面が大きく変わるはずです。

1.なぜ睡眠がテストステロンに影響するのか

1-1.ホルモン分泌のゴールデンタイム
テストステロンをはじめとする多くのホルモンは、睡眠中に分泌が活発になると言われています。
その理由の一つは、眠りに入ってからしばらく経過した“深い睡眠(ノンレム睡眠)”の状態で、成長ホルモンなどが分泌されやすくなり、それに付随してテストステロンの合成も促進されると考えられているからです([1])。
もし睡眠時間が不足してしまうと、この「ホルモン分泌のゴールデンタイム」を十分に確保できず、テストステロン値が下がってしまう恐れがあります。

1-2.コルチゾールとの相互作用
睡眠不足が続くと、ストレスホルモンであるコルチゾールが高まりやすくなります。
コルチゾールが増えすぎると、テストステロンをはじめとする他のホルモンの分泌が阻害される可能性が高まります([2])。
忙しいビジネスパーソンほど「睡眠時間を削って仕事をしよう」と考えがちですが、睡眠不足はコルチゾールの上昇を招き、結果的に仕事のパフォーマンスを下げかねないのです。

2.睡眠の質がもたらすビジネスパフォーマンスへの効果

2-1.集中力・判断力の向上
十分な睡眠をとっていると、脳内で記憶の整理や情報の統合がスムーズに行われます。
これは仕事のシーンにおいて、集中力を高めたり、判断力やアイデア創出力を向上させたりする大きな要因になります。反対に、睡眠不足の状態では注意力が散漫になり、ミスや事故につながるリスクが上がります([3])。

2-2.メンタルヘルスの安定
睡眠は脳の疲労回復だけでなく、精神的なリセットにも大きく貢献します。
適切な睡眠を確保できていれば、仕事や人間関係のストレスを相対的に受け流しやすくなり、イライラや不安感が軽減される傾向があります([4])。こうしたメンタルの安定が、長期的なテストステロン維持にも繋がるのです。

3.質の高い睡眠を得るための具体的アプローチ

3-1.就寝・起床時間をなるべく一定に保つ
「何時に寝て何時に起きるか」をできるだけ固定することで、体内時計(サーカディアンリズム)が整いやすくなります。
平日は深夜まで仕事をして、休日は昼過ぎまで寝る……というパターンだとリズムが乱れ、ホルモン分泌や新陳代謝のサイクルにも悪影響を及ぼします([5])。
平日と休日の寝る時間が2時間以上ズレている方は、まずは1時間程度の差に留めるよう、少しずつ調整してみましょう。

3-2.就寝前のルーティンを整える
質の良い睡眠のためには、入眠前の“準備”が重要です。たとえば下記のようなルーティンを取り入れてみてください。

– スマホやPCの使用を控える
ブルーライトは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します([6])。就寝30分~1時間前には電子機器から離れるのが理想です。

– ぬるめの入浴でリラックス
寝る1~2時間前に40℃前後の入浴を行うと、体温が徐々に下がる過程で自然な眠気が生まれます。熱いお風呂に入ると逆に交感神経が高ぶり、寝つきが悪くなることがあるので注意しましょう。

– 軽いストレッチや呼吸法
ゆっくりとした深呼吸を行うことで、副交感神経が優位になりやすくなります。緊張した筋肉をほぐす軽いストレッチも、血行を促進してリラックス効果を高めます([7])。

3-3.寝室環境の見直し
– 部屋の温度・湿度管理
人が快適に寝付ける温度は季節にもよりますが、おおむね18~22℃とされています。湿度は50~60%程度が理想です。

– 光と音のコントロール
カーテンやアイマスクなどで外光を遮断し、可能な限り静かな環境を整えましょう。微かなLEDライトの光でも気になる方は、就寝前に完全に消灯できる状況を作るのが望ましいです。

– 寝具の選択
マットレスが硬すぎたり柔らかすぎたりすると、寝姿勢が崩れ、体の一部に負担がかかって睡眠の質を下げる原因になります。自分の体型や好みに合った寝具を選ぶことも大切です。

4.“やめたほうがいい”就寝前のNG習慣

4-1.カフェインやアルコールの摂取
コーヒーやエナジードリンクなどに含まれるカフェインは、摂取後4~6時間ほど作用が持続する可能性があります([8])。
夕方以降はカフェインの摂取を控えるだけでも、睡眠の質が改善されるケースが少なくありません。
また、アルコールには一時的にリラックス効果があるように感じられますが、深い睡眠を妨げる作用もあり、結果として夜中に何度も目が覚める原因になり得ます。

4-2.激しい運動や大量の食事
寝る直前の激しい運動は交感神経を刺激し、体温も上昇させるため、入眠を妨げる可能性が高いです。
運動をするなら就寝2~3時間前までに終わらせるのが理想と言われています。
また、大量の食事を摂ると消化にエネルギーが使われるため、寝ている間も胃腸が活発に働いてしまい、熟睡できないことがあります。軽めの夕食を心がける、どうしてもお腹が空いている時は消化のよいものを少量だけにするなどの工夫が必要です。

5.睡眠不足を解消するためのビジネスパーソン向けアイデア

5-1.仕事のスケジュールを見直す
忙しさを理由に睡眠時間を削ってしまう方は、まず仕事のスケジュール管理を見直してみることが大切です。
優先度の高い仕事に集中する時間を決めて、低い仕事は思い切ってDelegation(委任)やElimination(削除)を検討するなど、時間を生み出す工夫を取り入れましょう。

5-2.パワーナップ(昼寝)の活用
もしどうしても夜の睡眠時間が短くなってしまう日が続くなら、昼休みや夕方の休憩時間に10~20分ほどのパワーナップをとるのもおすすめです。
短時間の昼寝は脳の疲労回復に効果的で、午後からの集中力を持続させる助けになります([9])。ただし長すぎる昼寝は夜の睡眠に影響するため要注意です。

5-3.定期的な休暇を意識的に取る
週末や長期休暇の使い方も重要です。旅行や趣味を楽しむのも良いですが、慢性的な睡眠不足の方は「ひたすら寝る日」を設けて体力を回復させる方法も考えてみましょう。
ただし、休日にいきなり長時間寝続けるのは体内リズムを乱すリスクもあるため、数日に分けて徐々に睡眠時間を増やすのが望ましいです。

まとめと次回予告

テストステロンの分泌を最大限に引き出すためには、睡眠の質と量をしっかり確保することが欠かせません。
睡眠不足はコルチゾールの増加やホルモン分泌の乱れを招き、モチベーションや集中力、さらにはメンタルの安定までをも奪ってしまいます。
逆に、質の高い睡眠を確保できれば、テストステロン値を保ちやすくなり、ビジネスパフォーマンスやストレス耐性が大きく向上します。

次回は、「腸内環境で変わるビジネス脳――腸活がテストステロンとストレス耐性を底上げ」というテーマで、腸活とホルモンバランスの意外なつながりを取り上げます。
腸内フローラを整えることが、実はあなたの“やる気”や“アイデア力”にも影響しているかもしれません。

ぜひお楽しみに。

 

【参考文献】
[1] Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
[2] Sapolsky RM, Romero LM, Munck AU. How do glucocorticoids influence stress responses? Endocr Rev. 2000;21(1):55-89.
[3] Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation’s updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015;1(4):233-243.
[4] Meerlo P, Sgoifo A, Suchecki D. Restricted and disrupted sleep: Effects on autonomic function, neuroendocrine stress systems and stress responsivity. Sleep Med Rev. 2008;12(3):197-210.
[5] Touitou Y, Touitou D, Reinberg A. Disruption of adolescents’ circadian clock: the vicious circle of media use, exposure to light at night, sleep loss, and risk behaviors. J Physiol Paris. 2016;110(4 Pt B):467-479.
[6] Chang AM, Aeschbach D, Duffy JF, Czeisler CA. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015;112(4):1232-1237.
[7] Brown RP, Gerbarg PL. Sudarshan Kriya yogic breathing in the treatment of stress, anxiety, and depression. J Altern Complement Med. 2005;11(4):711-717.
[8] Clark I, Landolt HP. Coffee, caffeine, and sleep: A systematic review of epidemiological studies and randomized controlled trials. Sleep Med Rev. 2017;31:70-78.
[9] Lovato N, Lack L. The effects of napping on cognitive functioning. Prog Brain Res. 2010;185:155-166.