第1回:テストステロンとは何か?――仕事とメンタルを変える鍵を知る

この連載では、仕事に行き詰まりを感じている男性ビジネスマンの方々へ向けて、“テストステロン”を軸にしたパフォーマンス向上やメンタル面の強化方法をわかりやすくお伝えしていきます。
初回となる本記事では、まずテストステロンの基礎知識や、仕事やメンタルにどのように関係しているのかを解説します。

巷では「男性ホルモン」「筋肉を大きくするもの」というイメージが先行しがちなテストステロンですが、実はビジネスの場面でも大きな役割を果たしていることをご存じでしょうか。日々のストレスや不安、モチベーションの低下を感じる方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.テストステロンとは?

1-1.男性ホルモンの代表格
テストステロンは、主に男性の精巣(ライディッヒ細胞)で生成されるホルモンで、「男性ホルモン(アンドロゲン)の代表格」とも呼ばれます。
女性の体内にも少量ですが存在しており、男女ともに身体の健康や心理的な状態に深く影響を与えます。
とりわけ男性の場合、筋肉量や骨密度、体毛の増加などの二次性徴を司るだけでなく、闘争心・自信・活力といった精神的な側面にも強く関与していることが知られています([1])。

1-2.テストステロンがもたらすポジティブな影響
・身体面への影響
筋肉の合成を促進し、骨を強化する。体力や持久力が向上することで、結果的に日常の活動量が増え、疲労感を軽減する効果が期待できます([2])。

・メンタル面への影響
意欲や自信、自発性などにプラスの影響を及ぼし、ストレス耐性や集中力を高める要因となります。実際、テストステロン値が高い人ほど「新しいことに挑戦したい」「困難に立ち向かいたい」というモチベーションが高まりやすいとの報告もあります([3])。

・性機能との関連
性欲や性的パフォーマンスにも深く関わるホルモンですが、ビジネスマンにとっては「自信や自己肯定感が高まりやすい」といった側面で仕事や人間関係にも波及効果があると考えられています。

2.仕事におけるテストステロンの重要性

2-1.モチベーションの源泉として
現代のビジネスシーンでは、常に高いパフォーマンスや目まぐるしい変化への対応が求められます。
締め切りや会議のプレッシャー、人間関係のストレス……こうした要因が重なると、誰しもモチベーションを維持するのが難しくなってきます。
そのとき、テストステロンが十分に分泌されていると、「やる気を失わずに前進できる精神力」が養われやすいのです([4])。

「思わぬトラブルが起きたけれど、なんとか解決策を練ろう」「営業で大きな壁にぶつかったけれど、次のアプローチに挑戦してみよう」
――こうした前向きな姿勢を支える一因として、テストステロンの働きが考えられています。

2-2.テストステロン低下と仕事のパフォーマンス
逆にテストステロンが低下すると、疲れやすさや気力の低下に悩まされることが多くなります。
とくに中高年に差しかかる男性は、加齢や生活習慣の乱れ、慢性的なストレスによってテストステロンの分泌量が減りやすくなる傾向があります。
その結果、
・集中力が続かない
・些細なことでイライラしやすい
・仕事への情熱が薄れてきたように感じる
といった症状が出てしまうのです([5])。

こうした状態が続けば、当然ながら仕事の成果にも悪影響を及ぼします。

3.メンタルを変えるテストステロンの力

3-1.ストレスへの抵抗力を高める
テストステロンは、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの増加をある程度抑制する役割があると報告されています([6])。
仕事で想定外のトラブルが起きたり、厳しいプロジェクトの納期に追われたりすると、コルチゾールが増加して心身ともに疲弊しやすくなります。
その中でテストステロン値が安定していると、多少のストレスであれば「跳ね返す力」を維持しやすいと考えられるのです。

3-2.ポジティブな思考と行動力をサポート
「難しい課題に直面したとき、それをどう受け止めて行動するか」というメンタルの在り方は、ビジネスでの成果に直結します。
テストステロンが十分に分泌されていると、自信や闘争心、自発性が高まりやすいという研究結果があります([7])。
たとえば新規プロジェクトの提案や、新しい取引先へのアプローチなど、高いハードルへ挑戦する意欲を維持しやすくなるのです。

4.テストステロンが不足するとどうなる?

4-1.心身へのネガティブな影響
テストステロンが低下すると、抑うつ傾向や不安感が強くなるだけでなく、筋力の低下や体脂肪の増加といった身体的変化も現れる可能性があります([8])。さらに慢性疲労の感覚が強くなり、ビジネスパフォーマンスに深刻な悪影響を及ぼしかねません。

4-2.男性更年期(LOH症候群)のリスク
男性にも更年期があることは、まだあまり広く知られていません。男性更年期は「LOH(Late-Onset Hypogonadism)症候群」と呼ばれ、テストステロンの低下によって引き起こされる様々な症状(性欲減退、疲労感、イライラ、不安感、集中力の低下など)の総称です([9])。ビジネスマンとして活躍しようとする中で、こうした症状が出てしまうと「気合いだけではどうにもならない」状況に陥る可能性があります。
もし思い当たる節がある場合は、専門のクリニックで血液検査を受けるなど、適切な対策を検討してみることが大切です。

まとめと次回予告

テストステロンは、ただ「男性としての体格や性機能に関わるホルモン」であるだけでなく、仕事やメンタルを左右する重要なカギでもあることがおわかりいただけたでしょうか。テストステロン値が低い状態が続くと、モチベーションの低下やストレスへの弱さ、抑うつ傾向など、ビジネスパーソンが避けたい問題に繋がりやすいのです。

しかし裏を返せば、テストステロンを適切に維持・向上する生活習慣を身につけることで、仕事のモチベーションや成果を大きく引き上げる可能性があるとも言えます。この連載では、次回以降、具体的な改善策や生活習慣をテーマごとに深堀りしていきます。

第2回では、テストステロンを下げる要因となる生活習慣の落とし穴について詳しく掘り下げます。
睡眠、食事、運動、情報過多との付き合い方など、思い当たるものがきっとあるはずです。「どうしても毎日忙しい」「疲れていて改善に取り組めない」という声にも応えられるよう、実践しやすいポイントも併せて解説していきます。

ぜひ次回もお楽しみに。

テストステロンの秘密を知り、仕事もメンタルもより充実させる一歩を、私たちと一緒に踏み出してみましょう。

【参考文献】
[1] Shores MM, Matsumoto AM, Sloan KL, et al. Low serum testosterone and mortality in male veterans. Arch Intern Med. 2006;166(15):1660-1665.
[2] Bhasin S, Woodhouse L, Storer TW. Proof of the effect of testosterone on skeletal muscle. J Endocrinol. 2001;170(1):27-38.
[3] Archer J. Testosterone and human aggression: an evaluation of the challenge hypothesis. Neurosci Biobehav Rev. 2006;30(3):319-345.
[4] Vingren JL, Kraemer WJ, Ratamess NA, et al. Testosterone physiology in resistance exercise and training. Sports Med. 2010;40(12):1037-1053.
[5] Harman SM, Metter EJ, Tobin JD, et al. Longitudinal effects of aging on serum total and free testosterone levels in healthy men. J Clin Endocrinol Metab. 2001;86(2):724-731.
[6] Sapolsky RM, Romero LM, Munck AU. How do glucocorticoids influence stress responses? Endocr Rev. 2000;21(1):55-89.
[7] Kraemer WJ, Ratamess NA. Hormonal responses and adaptations to resistance exercise and training. Sports Med. 2005;35(4):339-361.
[8] Yeap BB. Testosterone and ill-health in aging men. Nat Clin Pract Endocrinol Metab. 2009;5(2):113-121.
[9] Morales A, Lunenfeld B, Gooren LJ, et al. Participants of the International Consultation on Male Sexual Dysfunction. Aging and the endocrine system in the male. J Sex Med. 2004;1(1):69-81.